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東京地方裁判所 昭和38年(レ)51号 判決 1963年10月29日

判   決

東京都中野区江古田四丁目一、八一二番地

控訴人

玉井明

右訴訟代理人弁護士

黒沢辰三

同都中野区小淀町一一番地

被控訴人

石野いん

同所同番地

被控訴人

石野進

同所一二番地

被控訴人

古宮静江

右被控訴人三名訴訟代理人弁護士

松島政義

右当事者間の昭和三八年(レ)第五一号土地所有権移転登記請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人らは、控訴人に対し東京都中野区川添町一八番地の七宅地二一坪八合一勺について、昭和三一年九月一日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め被控訴代理人は主文と同じ判決を求めた。(以下省略)

理由

一、訴外山田耕三が昭和三〇年四月二〇日本件土地を国から払下げを受けてその所有権を取得し、同三四年五月二一日その所有権移転の登記をなしたこと。右山田が同三〇年八月訴外亡石野朝次郎に対し家屋建築請負代金債務の支払にかえ代物弁済として、本件土地の所有権を同人に譲渡したこと。原告が昭和三一年九月一日、右亡石野から本件土地を代金五〇万円、同日金三四万円をその内金として支払い残代金一六万円は当時本件土地が国名義に登記されていたので山田が国から移転登記を受けると直ちに訴外石野は控訴人のために所有権移転登記手続をなしこれと引換えに支払う約定にて買受けたこと。しかし控訴人は訴外石野に対し、昭和三一年一二月二二日右残代金全額を支払つたこと。右石野朝次郎が昭和三五年七月二一日死亡し、その共同相続人が被控訴人ら三名であること。被控訴人らは現在本件土地の登記名義人でないことについてはいずれも当事者間に争いがない。

そこで、被控訴人らに、本件土地につき、控訴人のために所有権移転登記手続をなすべき義務があるか否かについて判断する。

本件土地の所有権は、訴外山田耕三から訴外亡石野朝次郎(被控訴人らは共同相続人として石野朝次郎の法律上の地位を承継したから、以下便宜被控訴人らという。)に譲渡され、更に控訴人に移転したのであるから、本件土地につき、控訴人は、登記権利者であり、被控訴人らは登記義務者であることは明らかである。しかも、ここに登記権利者、同義務者というのは、実体法上の意味であつて、登記手続上の登記権利者、同義務者を意味するものではない。登記手続上から云えば、被控訴人らは、本件土地につき登記名義人でないから、登記義務者ではなく、控訴人は、被控訴人らとの関係において登記権利者ではない。このことは、不動産登記法上自明のことに属する。被控訴人らは、登記名義人ではないのであるから、訴によつて、被控訴人らに対し控訴人のために直ちに移転登記手続をなすべきことを求めることのできないことも明らかである。けだし、登記の申請には、登記義務者の権利に関する登記済証の提出が要求され(不動産登記法、第三五条一項三号)、申請にかかる登記義務者の表示が登記簿と符合しないときは、申請は、登記官吏によつて却下されなければならない(同法第四九条六号)こととなつている。被控訴人らには、本件土地につき登記済証はなく、登記簿上にも名義は存在しないから登記上の名義と被控訴人らの名義とは符合する由もないことである。したがつて、仮に、本件土地につき、控訴人を登記権利者とし被控訴人らを登記義務者として、両者が移転登記手続の共同申請をしても当然却下されるべきものであるから、被控訴人らは、そのような申請をなすべき義務を負担しない。ところで、本訴において、控訴人は、被控訴人らに対して、直ちに控訴人のために所有権移転登記手続をなすべき旨の意思の陳述を求めているのである。しかして、右意思の陳述は、前記共同申請における被控訴人らの申請に代るべきものであるから、右申請をなすべき義務のない被控訴人らが、訴によつて、右意思の陳述を強制されるいわれのないことは論をまたないところであるからである。

二、してみると、控訴人の請求は、その余の点の判断をまたず失当であること明らかであるから、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は、まことに相当であつて本件控訴は理由がない。

よつて、控訴費用につき、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第六部

裁判長裁判官 西 山   要

裁判官 中 川 哲 男

裁判官 岸 本 昌 巳

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